絶滅寸前「サイドカー」の今

即位パレ―ドで話題も、現代では乗り手が少ないサイドカー 写真提供/ブリストルドックス
 11月10日に行われた天皇陛下即位に伴う「祝賀御列の儀」(即位パレード)。この行事終了後、メディアはこぞってこのパレードで使用されたさまざまなものを報じたが、なかでも、皇宮警察が護衛のために使用した特別仕様の「サイドカー」は、天皇皇后両陛下がお乗りになったオープンカーの前を先導するかたちで常にテレビに映りこんだこともあり、大きな話題となった。では、このサイドカーの魅力とはいったいどんなところにあるのだろうか?東京・杉並区で都内で唯一となるサイドカー専門店を営み、自らサイドカークラブを運営するブリストルドックスの池田澄生氏に話を聞いた。

◆“サイドカー=滑稽なもの”から一気に高貴なものへ

 そもそもサイドカーは、自転車に荷物をたくさん積むために側車を付けたことがその原点とされている。20世紀初頭、その動力源が自転車からバイクに替わり、当時はまだ4輪の普通自動車が普及していなかったこともあり、ヨーロッパを中心に普及していく。人力や自転車より多くの人や荷物を積むことができるということで重宝され、第一次世界大戦など戦争でも、機動力があり、生産コストも4輪車に比べ安く、兵士や物資の輸送のため数多く導入された。
 日本では、日中戦争前後から導入されたが、悪路が多くあまり実用的ではなかったため戦時中はあまり普及せず、むしろ第二次世界大戦後、4輪の普通自動車の生産が規制されたため、比較的ルールがゆるかったサイドカーが庶民の足として活躍した。

 だが1950年代以降、4輪の普通自動車の生産制限がなくなり、特に小回りの利く軽自動車が普及すると、その需要は一気に減少。実用性、利便性を生かしたものから一気に「趣味」のものになってしまう。
 70年代以降、『人造人間キカイダー』など特撮ヒーローが乗るバイクに取り付けられ、子どもたちの憧れになったものの、バラエティー番組ではタレントを乗せたサイドカーが途中でバイクと切り離されて、どこへ行くかわからない様子を見て笑うなど、「サイドカー」はどこかコミカルで滑稽な存在として認知されるようになっていった。
「うちの会員やお客さんの中にも、『キカイダー』に憧れて、サイドカーのオーナーになったという人はいますよ。小さいころに抱いた憧れをずっと心の中にしまって、大人になってその憧れを叶えたという。でも、バラエティー番組には本当に頭に来るよね。今も問い合わせ来ますよ、『サイドカー貸してください』って。内容聞くと芸人を乗せて、『段ボールの山に突っ込みます』って。頭にくるよね。でもあのパレードで少しはイメージが変わったかなと思います」(池田氏)

 天皇皇后両陛下が乗るオープンカーを取り囲むように、皇宮警察の6台のサイドカー付きのバイクが護衛にあたる様子はまさに壮観。バラエティー番組で段ボールの山に突っ込ませようとしていたものと同じなんて誰も思わないだろう。
「実際に見たわけじゃないから推測だけど、(パレードで)サイドカーを使用した理由の一つは機動性。もう1つは、パッセンジャー(サイドカー側に乗る人)がすぐに飛び出せるから。車だとドア開けたり、すぐにパッと飛び出せないからね。サイドカーが注目を集めたことはすごくうれしかったんだけど…」(池田氏)

◆問い合わせはわずか1件…風前の灯 バイク人口減&価格帯もネックに

 だが、現実は厳しい。パレードであれだけ、注目を集めながら「サイドカー」についての問い合わせは、メディアから1件あっただけ。一般ユーザーからの問い合わせはなく、お店に遊びに来た常連やクラブの会員と「話題になったね」と話す程度だったという。
「見て興味を持つことと、乗ることはやっぱり別なんですよ。認識はするけど、乗れるかというとそれは別。そもそも、バイク自体が今、注目されていませんから」(池田氏)

 バイクの免許を持っていれば、その他に特別な免許なしで、その排気量に対応するサイドカーに乗ることができるのだが、ただでさえバイク人口が減っているなかで、さらにサイドカーに乗る人を見つけることは困難。その理由も複数にまたがる。
「そもそも、サイドカーをバイクに取り付けるハードルがなかなか高い。持ってきたバイクに取り付けてほしいということが多いのですが、(バイク代なしで)サイドカーと取り付け費用、塗装費用など全部入れると250ccで80~90万円が一番最低ライン。大型だと170万~180万円。高いのだと300万以上で、税金入れて700万円なんていうものも。高級車が余裕で買えますよね。さらに、今は規制も厳しくなってきて、特に2011年ころからの生産車は、公式の制動能力テストを受けないといけなかったり。そうするとその費用や時間もかさむ。乗るには厳しい現状なんです」

 費用や時間的な部分でサイドカーを諦める人が増え、愛好家が減った結果、サイドカー市場にも大きな影響を与えている。
「昔は10メーカーくらい出していたんですけど、今はホントに片手で数えられるくらい。需要がないし、供給元にも力がないから開発できていないし、輸入元も数が少ないと輸送費が高くなるのでなかなか輸入できない。そんな状況だから、取り付けの技術を持っている人も高齢化が進んで、新しい人がなかなか入ってこない。販売店もこれだけじゃ勝負できないから大変です。うちも販売は年に2~3台。あとは中古車の転売だけど、ほとんどこの文化をつなぐためにやっているようなもの。まさに氷河期ですよ」(池田氏)

◆「バイクとは別の乗り物。これほど操作性が面白い乗り物はない」

「いろいろやってきたけど、もうこの魅力を多くの人に伝えなくてもいいかなと思っています。なかなか広がらないですからね」(池田氏)
と、半ばあきらめモードの池田氏だが、サイドカーの魅力について聞くと目を輝かせる。
「私の場合は、地上を走る乗り物の中でこれほど面白いものはないと思います。みなさん、バイクの横にちょこっとついてるだけだと思っている方が多いと思いますけど、動力源がバイクなだけで、まったく違う乗り物になります。サイドカーにはエンジンが付いていないので、惰性という力が働く。そうするとハンドル切らずにアクセルの強弱だけでカーブを曲がり切ることもできる。それくらい操作性の楽しい乗り物になるんです。私なんて、一番最初にサイドカーに乗った日、誰も操作なんて教えてくれないから、バイクと同じ感覚で運転して、橋の欄干に激突しました(笑)。でも慣れるとほんとに楽しいんですよ」(池田氏)

 池田氏のようにサイドカーの魅力に引き付けられ、サイドカーライフを楽しんでいる仲間も多い。
「今乗っている方は、熱がある人が多いですね。クラブ員で70~80人くらい。年齢は徐々に上がっているけど、人数はここ数年あまり変わっていないです。2か月に1回ぐらいツーリングやっています。11月末にも下田に行ってきました。45人くらい参加して25台くらいサイドカーが集まります。皇宮警察より多いですよ(笑)」

 価格や保管場所、運転技術の習得などのプロセスを考えると、気軽に購入できるものではない。だが取材中、見せていただいたツーリングの様子の写真は、誰もが生き生きとした表情を見せていた。普及についてネガティブな言葉を話した池田氏も、「(クラブでは)サイドカーを持っている人ばかりではなく、乗ってみたい、パッセンジャー(サイドカー乗車)体験をしたいという人など興味があれば入会は可能です。間口は広げていかないとね」と希望を話す。また数は多くないものの、販売店やクラブを運営し、池田氏と同様にこの一つの文化を守りながら、若い世代に伝えようと懸命に活動を続けている人たちが日本全国にいるという。暗い話題が多いなか、活動する熱を持った愛好家がいる限り、その火は決して消えないだろう。

(提供:オリコン)


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