救えなかった、自問自答のダルク

覚せい剤取締法違反の疑いで6日、現行犯逮捕された田代まさし容疑者(C)ORICON NewS inc.
 元タレントの田代まさし容疑者が6日、覚せい剤取締法違反の疑いで現行犯逮捕された。この一報をTVやWEBメディアが速報すると、ネットユーザーが即座に反応。通常、タレントや著名人の“薬物報道”に対しては辛口なコメントが目立つが、田代容疑者への批判や揶揄する声よりも、「あれだけ反省してやってしまう常習性が恐ろしい」「ダメだったか…やっぱり薬は怖いね」「やめることがいかに難しいかを知りました」といった、覚醒剤の絶望的な依存度に対する“恐怖”を訴える声の方が多かった。そこで今回、自身も覚せい剤逮捕歴を持つ『岐阜ダルク』のスタッフ・山田興久氏にインタビューを実施。“下劣なドラッグ”である覚せい剤の本当の怖さ、そして『ダルク』スタッフが抱える自問自答の日々について聞いた。

■まず理解すべきは「薬物依存症は決して完治しない病気」であること

 田代容疑者は覚せい剤取締法違反などで過去4回逮捕。14年7月に出所した後は、薬物依存症のリハビリ施設『ダルク』の職員として勤務するほか、YouTubeで「ブラック マーシー」を開設。19年7月には Eテレ『バリバラ』の特別企画に出演して薬物依存症の怖さを語るなど、メディア露出も増え始めた矢先のことだった。

 そもそも田代容疑者がスタッフをしていた『ダルク』とは、薬物(覚せい剤、アルコール、シンナー、精神安定剤、睡眠薬、などの様々な薬)をやめたくてもやめられなくなる薬物依存症に陥った人達が回復を目指す民間のリハビリ施設のこと。『ダルク』では、“薬物依存は決して完治しない病気”という認識の元、リハビリのプログラムを日々行っているのだそう。

 『岐阜ダルク』のスタッフ・山田氏もまた、覚せい剤で3度の逮捕歴を持ち、現在も施設で薬物依存症と向き合う一人。元々山田氏は、役所に勤め家庭も持っていたのだが、36歳の時に知り合いに覚せい剤を勧められ、『今日だけ』の軽い気持ちで手を出してしまったという。

 「最初は執行猶予がつきましたが、『やめよう、やめよう』と思っていながらも再び覚せい剤に手を出し2度目の逮捕となりました。家庭は崩壊し、職も失う地獄を見ながら、その後も覚せい剤で3度目の逮捕…。もはや自分だけではやめられないことに気づき『ダルク』に連絡しました」(山田氏)

 『岐阜ダルク』は、田代容疑者がスタッフをしていた施設とは異なるため、「田代さんがどのような仕事やプログラムに関わっていたかは詳しく知りませんが」と前置きしつつ、山田氏は「『ダルク』の基本方針は一貫していて、12のステップに基づいたプログラムによって新しい生き方の方向付けをし、各地の自助グループとの関係を繋げていくこと」だと強調した。


■“過去の自分”を捨てる覚悟が無ければ過ちを繰り返す


 この12ステップを実践するうえで重要なのが、「薬物依存治療とは、過去の自分の生き方と決別し、“生まれ変わる”覚悟」だと話す山田氏。それは決して比喩や上っ面の言葉ではない。過去に自分が着ていた服、関わっていた仕事、交友関係ほか“全てを捨ててリセットする”のだという。つまり、「意志と覚悟を持ってプログラムを実践しなければ薬物依存症から治癒していくことは困難」だと語った。

 そのため、『ダルク』では薬物依存症の改善を“回復”と呼ぶ。その点について「薬物依存症には完治がないから」と話す山田氏の言葉は重い。では、『ダルク』のプログラムを実践することで薬物依存症から回復できる割合はどれ位なのかと聞くと、「プログラムを続けられる人とそうでない人で明確に分かれる」とのこと。実は『ダルク』を途中でやめてしまう人や逃げてしまう人は多く、そういった人からは高い確率で刑務所や留置所から手紙が届くのだそう。

 実際、7日に配信された『AERA dot.』の記事に、田代容疑者を支援してきた月刊誌『創』の篠田博之編集長の「(田代容疑者は)最近は自分で、タレントとして仕事をとるようになった。ダルクに来る日もめっきり減っていたそうです。周囲も大丈夫なのかと気にかけていたら、今回の逮捕だった」というコメントが掲載された。田代容疑者にとっては生活するためのやむを得ぬ選択であったかもしれない。しかし、山田氏が語った“プログラムを続ける覚悟”の重要性を、不幸な形で裏付ける結果となってしまった。

■薬物依存症の行きつく先はみな同じ「刑務所か病院か死か」

 とはいえ、『ダルク』のスタッフもまた薬物依存症と戦う回復者であると同時にひとりの人間だ。当然、田代容疑者のような件には心を痛め、「もっとやれることがあったのではないか」と自問自答し、心も体も“消耗”する。だからこそ、社会との接点となる自助グループの繋がりが重要になると山田氏はいう。「入所者もスタッフも例外なく、大切になるのは“徹底した正直さ”です。例えば、もし薬に手を出しそうになったら、仲間たちと共に行うミーティングで素直に打ち明ける。薬に対して我々が無力であり、抵抗する手立てがないことを互いに認識することが薬物依存症の人たちにとってのスタートライン」と、力を込めて語った。

 こうした共通の意識や連帯感を持って立ち向かわなければならないほど、薬物の恐怖は増しているという。山田氏は薬と距離を取るために「SNSは見ない」と話す。それは「今はSNSなどで簡単に薬が手に入ってしまうから」だという。続けて、「一般人でも入手が容易な時代だし、売人は夜になればいろんな所にいる。田代さんのような有名人なら、近づいてくる売人はいくらでもいたのではないでしょうか」と、薬物の逮捕者が頻発するエンタメ業界に対して山田氏は危機感を抱いていた。

 「今日だけ」の軽い気持ちで人生の多くを失った山田氏。同じ思いはして欲しくないと前を見据えて語った。「薬物依存症の人がよく言うのが、『行きつく先はみな同じ』という言葉です。それは、“刑務所”か“病院”か“死”の3つだということです。だからこそ、“最初の1回”をなんとしても避けてほしい。自分も興味本位の1回で人生の全てが変わりましたから…」

 そして最後に、田代容疑者に対して山田氏はメッセージを発した。「まだ今回の容疑がどうなるか分かりませんが、田代さんも刑罰では薬物依存症が治らないことはよく分かっていると思います。次に出所した際はもう一度、一緒にプログラムをやりましょう」

取材協力:『岐阜ダルク』山田興久

(提供:オリコン)




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