吉本興業会長「笑いの質も時代で変わる」

約58ヶ国・地域から集まった1500人の前であいさつする吉本興業の大崎洋会長
 吉本興業(以下吉本)は昨年2月、ソーシャルビジネスを展開する新会社「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(以下yySA」を設立した。ソーシャルビジネスとは、利益の最大化ではなく社会問題の解決を目的としたビジネスのことである。経済的に自立して事業を継続させ、長期で地域社会に貢献することが目的だ。

■人との関わりで成り立つエンタメ企業のあり方

 yySAの社名には、ムハマド・ユヌス氏の名前を冠した。ユヌス氏はマイクロファイナンス(小規模金融)を行うグラミン銀行を創設し、貧困者を支援したことでノーベル平和賞を受賞した経済学者だ。yySAはユヌス氏とともに、吉本が得意とする「笑いの力」とスタートアップ企業を組み合わせて経営を行っていく。6月28日にはタイ・バンコクで、ユヌス氏が主催する国際イベント『第9回ソーシャルビジネスデイ』が開催され、調印式が行われた。

 日本ではなかなか馴染みのないソーシャルビジネスだが、世界では大きな注目を集めており、同イベントには約58ヶ国・地域から1500人を超える参加者が詰めかけていた。フランス・パリ市長も来場しており、ユヌス氏は2024年のパリ・オリンピックに向けて「ソーシャル・オリンピックとして活動していく」などと構想を語っていた。

 yySAの具体的な取り組みは、吉本が2011年から全国各地で展開中の「あなたの街に住みますプロジェクト」を軸に、地域に住む芸人とエリア担当社員が、地域の課題を解決するための新規ビジネスを投資家に提案する。すでに6事業がスタートしており、それぞれ初年度で黒字化を目指すという。イベントの調印式に出席した吉本の大﨑洋会長が、笑いとソーシャルビジネスというユニークな組み合わせについて説明すると、来場者は熱心に聴き入っていた。

 実は調印式の前日、吉本はコンプライアンスを徹底する「決意表明」を発表していた。107年という長い歴史を持ち、6000人もの芸人と多くの社員を抱えるエンタメ大企業が、利益を上げながら今の時代にどう立ち振る舞い、ソーシャルビジネスを展開していくのか。企業としての在り方を改めて考えるタイミングでもあっただろう。大崎会長は次のように心境を語った。

「もちろん、笑いを届けてお金という対価をもらうのは会社の基本です。でも時代が変化していくなかで、笑いの質や役割もずいぶん変わりつつあると思っています。笑いの力で家族や恋人、仲間、大阪府や日本…そういう大切なものを、少しでも力づけることができたら、と思うようになったんです」

■yySAが手がける先行6事業の主な内容

 大崎会長は同イベントで、江戸時代から伝わる「三方良し」の考え方を丁寧に説明していた。「商売において、売り手と買い手だけでなく社会貢献ができてこそいい商売」という、現代のCSRに繋がる考え方だ。

「この言葉は、ソーシャルビジネスと同じことを言っています。つまりソーシャルビジネスは、日本の昔からある考え方なんです。しかしそれを実現させるためには、個人が変わらなければ成し遂げられません」

 吉本は沖縄で、地元の子どもたちやお年寄りと一緒に『沖縄国際映画祭』を10年以上続けてきた。すると社員や芸人たちは、沖縄が抱えるさまざまな問題を知り、意識を持つようになってきたという。人々の幸せに直結するエンタメ企業の役割として、吉本は多くの人との関わりのなかでこの構想を練ってきたのだろう。

 住みます芸人プロジェクトは現在、アジア各国にも広がっており、yySAでもさまざまな事業が構想中だという。大崎会長は「これから2025年の大阪万博に向けて、ソーシャルビジネスを世界中の中小企業と一緒に展開していけたらいいな」と呼びかけていた。

ユヌス・よしもとソーシャルアクション株式会社
設立:2018年2月1日/代表取締役社長:泉正隆
ソーシャルビジネスを発案した経済学者でノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏とともに、「利益の最大化ではなく、社会問題の解決が目的」、「投資家は投資額を回収するが、それ以上の配当は受け取らない」、「楽しみながら取り組む」といったユヌス・ソーシャルビジネスの7原則を順守しながらソーシャルビジネスを展開していく

先行6事業の主な内容
【「笑いの力」で社会問題を解決】
●山梨県/移動詰め放題屋「ふじまーる」(住みます芸人:ぴっかり高木、いしいそうたろう)
芸人が県内を移動販売車で巡り、ネタを披露しながら「詰め放題タイムセール」を実施。山間部の「買い物弱者」支援や、中心部の商店街の賑わいづくりに貢献する

●京都府/丹後産直「野菜市」(住みます芸人:きゃろっときゃべつ)
芸人が就農し、京都府北部の丹後地域で生産された農作物を、関東や関西の都市部で販売することで、農業や地域の魅力を発信する

●栃木県/お笑い介護レクリエーション(住みます芸人:上原チョー)
介護業界の人材不足を解消するため、芸人が介護関連の資格「介護初任者研修」「介護レクリエーション2級」を取得し、県内の介護施設などで介護レクリエーション事業を実施する

【楽しみながら環境・エコ問題を解決】
●静岡県/沼津新名物「深海魚ふりかけ」(住みます芸人:富士彦、ぬまんづ)
「深海魚の聖地」と言われる沼津市で、廃棄されてきた深海魚を使った新特産品「深海魚ふりかけ」を発売。芸人が宣伝も担う

【後継者不足の文化・伝統工芸を再興】
●福岡県/畳から日本文化を世界に(住みます芸人:MC Tatami)
畳の原材料「イグサ」に食物繊維が豊富なことに着目し、イグサを原料にした「畳あめ」を開発・販売する。芸人は「畳屋ラッパー」として活動中

【集客施設・商店街に持続可能な活気を取り戻す】
●岡山県/渋川マリン水族館×よしもとコラボレーション事業(住みます芸人:江西あきよし)
来場者数減に苦しむ県内唯一の水族館「渋川マリン水族館」(玉野市)の再生に向けて、吉本芸人とのコラボレーション企画を展開する

(提供:オリコン)




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